SAP S/4HANA移行を成功に導くERPモダナイゼーションとは

SAP S/4HANAへの移行を単なるシステム移行で終わらせず、ERPモダナイゼーションの機会に変えるためのポイントを解説。移行範囲やコスト、レガシーシステムの複雑さを見直し、AIに対応した情報基盤を構築するための考え方を紹介します。

ERPのモダナイゼーションは、単なる移行ではない

2027年が目前に迫っています。そして2027年末には、SAPのレガシーERPであるECCのメインストリーム保守が終了します。S/4HANAへの移行をまだ完了しておらず、今後の対応について検討を重ねている数千もの組織にとって、これは非常に重要な期限となります。

多くのERP移行計画では、まず「いかに期限内かつ予算内で移行を完了させるか」に焦点が当てられます。しかし、ERPのモダナイゼーションには、それ以上の大きな可能性があります。保守期間を延長するには追加コストがかかります。そのため、ERPのモダナイゼーションに戦略的に取り組むことで、期限内の移行完了を目指すと同時に、より効率的で連携性が高く、AIに対応した基盤を構築することができます。

ここでは、今後数カ月の間に行うS/4HANA移行に関する選択が、その後何年にもわたってSAP環境にどのような影響を与えるのかを考えていきます。

今こそERPのモダナイゼーションに着手

S/4HANAへの移行は、明確な方針と予算、そして経営陣の関与のもとで、組織がデータ、プロセス、アプリケーション環境を一度に見直すことができる、またとない機会です。

このプロセスでは、重要な意思決定が求められます。どれだけの履歴データを引き継ぎ、どれだけをアーカイブすべきか。どのレガシーアプリケーションを廃止し、どれを残すべきか。そして、コンテンツを、それが支えるさまざまな業務プロセスとどのように連携させるべきか、といった判断です。

データ量とコストは増え続けるため、着手するタイミングも重要です。デロイトの最近の調査によると、技術的負債は組織のIT支出の21%から40%を占めると推定されています。つまり、ERPのモダナイゼーションへの着手が遅くなるほど、移行に必要な作業量も増えていくということです。

ERP移行では、複雑さを別の場所に移すのではなく、軽減させることが重要

ERP移行では、移行対象を絞り込むための意思決定が不可欠であり、それぞれの判断にはコストが伴います。データ、カスタマイズ、アプリケーション、コンテンツなど、移行対象となるものはすべて、新しい環境への移行、テスト、運用が必要です。Horváthの報告によると、S/4HANA移行プロジェクトの60%が予算、スケジュール、品質のいずれかの目標を達成できていません。その理由の一つが、こうした移行の複雑さです。しかし、移行範囲そのものを適切に管理することは可能です。

すべてを新しいS/4HANA環境へ移行する必要はありません。たとえば、非アクティブなデータは本番環境に残す必要がないかもしれません。過去の情報を検索するためだけに利用されているレガシーアプリケーションも、維持する必要はないでしょう。また、何十年にもわたって積み重ねられてきたカスタマイズの中には、真のビジネス価値を生み出すどころか、複雑さを増しているだけのものもあるかもしれません。

つまり、ERPのモダナイゼーションは、単なるシステム移行以上の意味を持ちます。それは、よりシンプルで整理された技術基盤を構築する機会でもあります。目標は、すべてをクラウドへ移行することではありません。ビジネスに必要なものを維持し、不要なものを廃止したうえで、より強固なコアシステムを基盤として前進することが重要です。

AIロードマップは、S/4HANAに含まれないコンテンツにも依存している

ERPのモダナイゼーションを改めて検討すべき重要な理由の一つは、AIへの対応という課題にあります。SAPは、エンタープライズソフトウェアを、人間の業務を支援するツールから、自律的に動作するAIエージェントへと進化させようとしており、企業もこうしたツールの活用を目指しています。

しかしAIは、アクセスできず、内容を理解できず、信頼もできない情報を安全に活用することはできません。さらに、ビジネス上の意思決定に必要なコンテキストの多くは、構造化されたERPデータの中だけに存在するわけではありません。文書、記録、契約書、コミュニケーションの記録、その他の企業コンテンツにも重要な情報が含まれています。

こうした情報が断片化されていたり、適切に管理されていなかったり、業務プロセスから切り離されていたりすると、AIに対応したERP環境を整備していても、それを十分に活用できる情報基盤が整っていないという状況に陥る可能性があります。

RISE with SAPの導入プロセスでは、コンテンツに関する意思決定を早期に行う

CIOにとって、モダナイゼーションは単に移行を完了することだけを意味するものではありません。移行は、レガシーシステムの複雑さを解消し、より高度に連携されたインテリジェントなエンタープライズへと変革していくための、一つのステップにすぎません。

多くの組織にとって、この変革はRISE with SAPから始まります。RISE with SAPでは、データを後付けで考えるのではなく、SAPのエージェント主導型ツールチェーンを支える中核要素として位置づけます。変革プロセスの初期段階でコンテンツとデータに関する適切な意思決定を行うことが、より迅速な移行と、より優れたビジネス成果の実現につながります。

早い段階から計画を立てることで、移行コストの増加や遅延の原因となる移行範囲を、より適切に管理できます。まずは、次の3つの質問から考えてみましょう。

何を排除できるか?

不要なデータやアプリケーションを整理・削減し、システムの複雑さを軽減します。

何を連携させるべきか?

業務プロセスを支える情報やコンテンツを、実際に業務が行われる環境と適切に連携させます。

何を適切に管理すべきか?

自動化とAIを支える情報に必要な統制、コンテキスト、信頼性を確立します。

これらは、それぞれが独立した取り組みではありません。相互に関連し、前の取り組みが次の取り組みの土台となります。スムーズな移行は、より緊密に連携された業務プロセスの基盤を築きます。そして、情報が適切に連携・管理されることで、信頼性の高い自動化とAIの活用が可能になります。初期段階で必要な取り組みを省略すれば、その後の取り組みはさらに難しくなります。

S/4HANAへの移行には期限があります。この期限を単なる通過点とするのか、それとも自社の技術基盤を競争優位性へと変える転機とするのか。その違いは、移行をどのように位置づけ、何を見直すかによって決まります。

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