SAPユーザー企業が語る、S/4HANA移行の現在地

SAP S/4HANA移行を成功させるために重要な「移行対象の削減」「システム連携」「AI活用に向けた情報整備」を解説。SAPユーザー企業の調査結果や事例をもとに、ERPモダナイゼーションを進めるためのポイントを紹介します。

SAPを利用する組織の55%がSAP S/4HANAを導入しています。しかし、SAPinsiderが2026年3月に実施したベンチマーク調査によると、実際に本番環境で日常的に稼働している組織は34%にとどまっています。

この21ポイントの差が、現在のS/4HANA移行を取り巻く状況を象徴しています。そして、ここから一つの重要なポイントが見えてきます。S/4HANAへの移行を完了できるかどうかは、新しいシステムそのものだけでなく、その周辺にある「情報」をどう扱うかに大きく左右されるということです。

どの情報を新しい環境へ移行するのか、何と連携させるのか、そして情報をどれだけ適切に管理できているのか。こうした要素が、S/4HANAをどれだけ迅速かつスムーズに展開できるかを左右します。

SAPを利用する企業のリーダーたちが重視しているのは、「移行対象を減らす」「連携を強化する」「AI活用に備える」という3つのポイントです。

移行対象を減らす:最大の課題は予算

現在、SAPを利用する組織にとって最大の課題となっているのが予算です。CIO.comが2026年5月に紹介したASUGの「2026 Pulse of the SAP Customer」調査によると、61%が予算を課題として挙げており、前年から7ポイント増加しています。

こうしたコスト負担を大きくする要因の一つが、移行時に新しい環境へ持ち込まれる膨大な情報やシステムです。長期間利用されていないデータ、参照目的でしか使われていないレガシーアプリケーション、そして長年にわたって蓄積されてきたカスタマイズなどが積み重なり、移行の負担を増大させます。

このシリーズの第2回でも紹介したように、SAPのデータアーカイブとレガシーアプリケーションの廃止を進めることで、不要なデータやレガシーアプリケーションを移行対象から外すことができます。

その一例が、風力タービンメーカーのENERCONです。同社はOpenText™ Core Archive for SAP® Solutionsを活用し、ビジネスユーザーの業務を妨げることなく、9TBのオンプレミスデータを移行しました。その結果、オンプレミスのインフラを廃止しながら、2,000万件の記録への24時間365日のアクセスを維持し、年間少なくとも23,000ユーロのコスト削減を実現しています。

連携を強化する:システム統合は不可欠

ERPそのものを移行するだけでは、取り組みの半分しか完了していません。ERPに関連する情報を、それを必要とする担当者や業務プロセスへ確実に届けられる環境を構築する必要があります。

SAPinsiderの調査では、SAPを利用する組織の82%が、コアERPと各業務部門のアプリケーションとの統合を、変革における重要な要件として挙げています。

この重要性は、請求書、契約書、承認書、従業員ファイルなど、日々の取引や業務に伴って扱われる文書で特に顕著です。

こうした情報がSAPの外部に存在していると、担当者は複数のシステムを行き来しながら、必要な情報を手作業で取得しなければなりません。その結果、本来であれば自動化できる作業に時間を費やすだけでなく、監査証跡が分断される可能性もあります。

SAPと文書を統合し、それぞれの文書を関連するトランザクションにひも付けることで、必要な情報を、必要な担当者へ、適切な業務プロセスのタイミングで届けられるようになります。

特殊ガラス、ガラスセラミック、その他の先端材料の世界的なリーディングカンパニーであるSCHOTTは、OpenText™ Vendor Invoice Management (VIM) for SAP® Solutionsを活用することで、請求書処理にかかる時間を約5日から約5分へ短縮しました。さらに、処理可能な請求書の量を約3倍に拡大し、年間50万件以上を処理できるようになりました。それと同時に、共有サービスセンターの業務をシンプルに維持しています。

AI活用に備える:まず情報を整備する

AI活用は現在、SAP S/4HANAへの移行を進める理由の一つとなっています。しかし、各社が評価している技術を見ると、まず何に取り組むべきかが明確になります。

SAPinsiderの調査によると、SAPを利用する組織が評価している技術のうち、最も多いのがデータクレンジングの45%です。これにSAP Readiness Checkの42%、自動テストの38%が続いています。

これは合理的な順序です。AIエージェントが信頼できる結果を出せるかどうかは、その基盤となる情報の品質と管理状況に左右されるからです。

そのためには、どのような情報を保有しているのか、誰がその情報にアクセスできるのか、そしてどのくらいの期間保管すべきなのかを把握しておく必要があります。

保持ポリシー、アクセス制御、監査証跡といったガバナンスを後から追加するのではなく、あらかじめ仕組みに組み込んでおくことで、AIエージェントが情報を安全に活用し、適切に処理できる環境を整えることができます。これが、OpenTextがSAPユーザー企業に提供する情報基盤です。

結局、重要なのは情報とガバナンス

こうした取り組みの効果は、S/4HANAの本番稼働後にも表れます。

すでにSAP S/4HANAを運用している組織の36%が、メリットの一つとして「監査に関するリスクの軽減」を挙げています。2024年には7%だったことを考えると、大幅な増加です。

適切に管理されていないレガシーシステムは、リスクが高まりやすい領域の一つです。そのため、S/4HANAに「何を移行するか」だけでなく、「何を廃止するか」を判断することも同じくらい重要です。

ここまで紹介した3つのポイントを見ると、共通するパターンが浮かび上がります。

予算のプレッシャー、システム統合の要件、そしてAI活用の計画。そのすべてが、「より少ない情報を移行し、必要な情報をつなぎ、適切に管理する」ことにかかっています。

新しいテクノロジーを導入するだけでは、S/4HANAの「導入」と「移行完了」の間にあるギャップを埋めることはできません。

移行対象を減らす。連携を強化する。そして、AIを活用できる情報基盤を整える。

この3つが、S/4HANA移行を着実に前進させるための重要なポイントです。

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「ERP近代化のトレンドとインサイトレポート」では、S/4HANAの導入が進む一方で、移行完了が遅れている理由や、企業の目指す姿にインフラが追いついていない背景など、7つの重要なポイントをさらに詳しく解説しています。

それぞれのポイントから、ERPモダナイゼーションを推進するプログラムオーナー、エンタープライズアーキテクト、ガバナンス責任者が押さえておくべき示唆を確認できます。

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