<前々回のブログ>サプライチェーンDXを成功に導くには?
積水化学様の事例から見えてきた成功要因①~認識された3つの課題~
https://blogs.opentext.jp/successful-supply-chain-dx1/
<前回のブログ>サプライチェーンDXを成功に導くには?
積水化学様の事例から見えてきた成功要因②~検討された3つのポイント~
https://blogs.opentext.jp/successful-supply-chain-dx2/
B2B移行時の考慮点
B2Bを刷新する時に、どういった点を考慮していくべきかをお話ししていきたいと思います。ポイントは2つ。「ITアーキテクチャ」と「SCMデータマネジメント」です。
ITアーキテクチャ① レガシー環境からクラウド環境への移行
ITアーキテクチャ1つ目の考慮点は、レガシー環境にするか、クラウド環境にするかその選択です。
「変化への対応」という視点があります。例えば、昨年からCOVID-19の影響により働き方が大きく変わってきた方も多いと思います。また、最近ではエシカル、これは倫理的なという意味ですが、CO2規制、紛争鉱物規制といったサプライチェーン上の新たな課題も生じています。こうした点にどう迅速に対応していくかという検討が必要になります。
「プロダクトライフサイクル」という視点もあります。ハードウェア、ソフトウェアの最新化をどうしていくのか?進化していくセキュリティの脅威に対しどう対応していくのか?自社で行うことのメリット、アウトソースすることのメリットを考える必要があります。
「接続方法」という視点もあります。直接接続EDIの他、Web-EDIも必要になります。また、これがB2Bの難しいところなのですが、新しい手段に完全に切り替えられず、例えばFAXが残るケースなども存在します。特に今回は調達系ではなく、販売系の取引ですので、自社でコントロールができない側面もあります。加えて将来的にはAPIやIoTへの対応も必要となってくるかもしれません。こうしたことを自社で個々に対応していくのか、それとも専門業者にアウトソースしてしまうのかという決断が必要となります。
企業間データ連携は、一般にお客様のコアビジネスとなるものではありません。独自性が競争優位になるものではないため、これらを考慮した結果、積水化学様では、弊社のようなクラウドサービスを使うことを選択されました。
ITアーキテクチャ② 柔軟性・拡張性を備えた疎結合のアーキテクチャ
ITアーキテクチャ2つ目の考慮点は、「柔軟性・拡張性を備えた疎結合のアーキテクチャ」です。
ERP、EAI(最近ではインテグレーション・プラットフォーム・アズ・ア・サービス=iPaaS等もここに含まれます)、そしてEDI/Web-EDI、これらをその特徴によってどう位置付けるかを考えていき、それぞれを分離することで柔軟性や拡張性のあるアーキテクチャにしていくことが重要になってきます。
EPRの特徴としては、業務セントリックであり、定型業務もあり非定形業務もあり、かつそれらが常時行われるということです。
EAI/iPaaSは、アプリケーションセントリックであり、非定型・アドホックであるという特徴があります。
EDIはデータセントリック。やり取りされるデータが重要になってきます。
また、注文をする、納期回答がある、出荷通知がある、在庫残が分かるといったように、繰り返し発生する定型の処理が常時発生します。
これらの特徴を考慮すると、ERP/EAIはオンプレミスや自社クラウドに構築し自社運用する方が効率的です。一方、EDIはそれ自体付加価値を生むものではないので、クラウドベースのサービスを使い、アウトソースしてしまうということが適しています。
ITアーキテクチャ③「ERP」ファイアウォールとしてのB2Bの活用
そもそも企業間データ連携=B2Bとはどういったものでしょうか?
ERPアプリケーションを中心として、それを取り巻く環境を考えていきたいと思います。
まず、お客様を取り巻くプレイヤーとして、「顧客、販社」といった販売側パートナーが考えられます。
その対面となるのが、「直接材や間接材のサプライヤー」、つまり調達側パートナーです。
販売、調達ともにモノが動きます。モノの移動を担う「物流・キャリア」もプレイヤーの一つです。
物流はこれでよいとしても、商流、つまりお金の流れまで管理できて初めてサプライチェーンが完結します。そのため「金融機関」とのやりとりも必要です。
さて、ここで、ERPに含まれるデータの内、どれぐらいが外部からのデータであるか、ご存知でしょうか?
IDGの調査では、実に44%のデータが外部からERPに取り込まれていることが明らかになっています。
ERPに取り込まれるデータの約半分が企業外からのデータなのです。
では、こうしたデータをERPに取り込むとき、気を付けておくべき点はなんでしょうか?
それは不正なデータを取り込まないということです。そのために様々なチェック機能や変換機能の実装が必要になってきます。B2Bプラットフォームから、マスタデータとの整合性をチェックすることは無理ですが、例えば必須フィールドの確認等はB2B基盤によりチェックできます。つまりB2B基盤がERPファイアウォールとしての機能を果たし、ERPに不正なデータが入るのを防ぐ盾となることができるのです。
こうすることで、ERPの機能が簡素化され、本来のERPに求められる、あるべき機能に注力できるようになります。
ITアーキテクチャ④ 密結合アーキテクチャから疎結合アーキテクチャへ
こうして、それぞれの特徴からそれぞれに適したシステム・サービスを選択することで疎結合のアーキテクチャが誕生します。疎結合のアーキテクチャにすることで次のようなメリットが得られます。
ITアーキテクチャ⑤ B2Bの事前整理・再構築による、円滑なERP移行
ERPとEDI(B2B)を切り分けた上で、導入はどのように行っていくのがお勧めか、一例をご紹介します。
まずはSTEP1として、既存システムはそのままにB2Bを再構築してしまうのがよいと考えています。
取引先とのやりとりは通常定型のものが多いため、一旦整理してしまえばそう変わることがありません。
その上で、STEP2としてバックエンドシステムを入れ替えれば、新しいバックエンドシステムのファイルフォーマット(上図右の緑色のファイル)と既存のファイルフォーマット(上図右の水色のファイル)の変換を追加するだけで対応できるようになります。こうすることで、ERP導入に伴う取引先への影響が最小化できます。
ERP導入時よく起こることですが、B2B、つまり外部インターフェース(I/F)の構築は、優先順位が下がることが多々あります。
ERPを導入すると、販売・調達・物流、それぞれ社内各部門の業務に影響するため、社内の業務部門の声が大きくなりがちです。外部I/Fは重要であるとは知りながら、社内向け各機能の開発にどうしてもリソースを優先的に割り当てることになり、その結果、外部I/Fの問題の発見が遅れ、プロジェクト全体の遅延といった状況が生じかねません。
そのため、B2BをERP刷新前に再構築しておくことは、ERP導入時のリスクを大きく減らすことにつながるのです。
積水化学様の事例でもこのアプローチが取られ、基幹システム刷新の前にB2B再構築を行われた先進的な事例になっています。
SCMデータマネジメント 分断の防止
次にSCMデータマネジメントの視点です。
図は海外のあるお客様の既存のEDI環境を簡略化したものです。ベンダーA社、B社、C社には独自にEDIを提供し、さらにレガシーEDIが複雑に絡み合い、一部はEDIをアウトソース。接続方法にしても、インターネット、VAN、ダイヤルアップ、どれがどう繋がっているか分からないような状況になっていました。これではEDIを整理し、データを活用していくことは困難です。
これを分断のない形に整理していくことで、サプライチェーンに関するデータを利活用する土台が整います。こうした整理も必要です。
成功のポイント
積水化学様におけるサプライチェーンDXの成功のポイントをまとめると次の3点です。
1、2については、お客様組織に依存します。それゆえに、「自分の会社では難しいかも」と感じられる方もおられるかもしれません。弊社では、このブログで紹介したようなサプラチェーンDXの進め方や、サプライチェーンDXの意義を専門家の視点から助言するサービスも行っています。お客様と一緒に、お客様上層部に上申する支援も行っていますのでご活用ください。
3についても、サプライチェーンDXを現実的なものとしていただくためのサービスをご用意しています。また、今回ご紹介したコンサルティングサービス以外にも様々なサービスをご用意していますのでご活用いただければと思います。
このブログでの拙稿が、みなさまのサプライチェーンDXの一助になれば幸いです。