現代のサイバー脅威は、頻度・巧妙さともに増す一方で、被害の深刻度も高まっています。多くの組織がファイアウォールやエンドポイント保護などの予防策に力を入れていますが、それだけでは十分とは言えません。不正アクセスを完全に防ぐことは現実的に困難である今、万が一の侵害が発生した際に求められるのは、何が起きたのかを迅速に把握し、被害の拡大を防ぎ、業務を早期に回復させる力です。こうした対応力を備えることが、サイバーセキュリティ対策の新たな必須要件となっています。この一連の対応を担うのが、DFIR(Digital Forensics and Incident Response)デジタルフォレンジックとインシデントです。
DFIRとは?
DFIRは、デジタルフォレンジクス(デジタル証拠の収集・保全・分析)」と「インシデント対応(識別・管理・緩和の構造化されたアプローチ)」という2つの重要分野を統合した領域です。
■デジタル・フォレンジクス
・デジタル証拠を収集・保全・分析し、攻撃者(もしくは内部犯)の行動を再構築。
・侵入経路や漏洩・盗難されたデータ、侵害の深度を明確にします。
■インシデント対応
・サイバー脅威や侵害に対し、発見(トリアージ)、封じ込め、原因除去、回復、事後分析といった体系的対応を行います。
この2つが統合されることで、組織は迅速かつ効果的に事後対応を行い、ダメージを最小限に抑え、将来への備えも強化できるようになります。
なぜ今、DFIRが重要なのか?
1. 攻撃全体の把握
攻撃が発生した場合、その範囲が端末単位なのか、ネットワーク全体に及ぶのか、データが盗まれたのか、侵入されたのかなどを明らかにすることが不可欠です。DFIRは攻撃のタイムラインを再構築し、感染の深度やルートを明らかにします。
2. ダウンタイムや損失の抑制
サイバー攻撃時は、迅速な対応こそが被害を最小化する鍵となります。調査・封じ込めを迅速に行うことで、企業は被害を抑え、事業継続やブランドへの影響を最小限にできます。
3. 法的・規制対応の支援
GDPRやHIPAAなどの規制対応のため、法的に有効な電子証拠の収集が必要な場合があります。DFIRはその正当な証拠収集/手続きの整備を担います。
4. セキュリティ強化への活用
DFIR調査を通じて浮かび上がる脆弱性や攻撃手法は、システム修正や検出ルールの改善、対応手順の見直しに役立ちます。
ユースケース
ランサムウェア攻撃への対応
単なる予防ツールでは攻撃の全貌や拡散ルートが不明確になりがちですが、DFIRは以下のような要点を明らかにします:
- マルウェアの侵入経路
- 暗号化されたシステム(端末)の範囲
- データの盗難の有無
- ネットワーク内の横移動の有無
このような知見が、迅速な復旧と今後の防御強化に直結します。
内部脅威への対応
内部犯行(例:不正アクセス、データ改ざん、横領・破壊など)は特に検出が困難です。2024年の報告では、83%の組織が少なくとも1件の内部脅威を経験し、48%がその割合が増加したと答えています。
DFIRによる詳細な解析により、通常の監視ツールでは見逃されるような事実も明るみに出せます。
まとめ
サイバーセキュリティに本気で取り組む組織にとって、DFIRへの投資(ツール、専門人材、プロセス構築)は選択肢ではなく、必要条件です。予防策だけでは見えない攻撃に備えきれませんが、DFIRを取り入れることで、どんな事態にも迅速に対応できる強靭な体制を築けます。
Digital Investigations and Forensics
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