昨今、「エシカル消費」というキーワードが注目を集めており、私たちの生活の中も「エシカル」を意識したものになりつつあります。 エシカルは日本語で「倫理的な」と訳されます。辞書によると倫理とは「人として守り行うべき道、善悪・正邪の判断において普遍的な基準となるもの」と説明されています。つまりエシカルとは、「人として守り行うべき道をわきまえていること」となります。一般社団法人エシカル協会ではエシカルを「人や地球環境、社会、地域に配慮した考え方や行動」と定義しており、これらのことからエシカルには大きく環境と人権という要素が含まれていることがわかります。
今、なぜ「エシカル」が求められているのか
企業に「エシカル」が求められている背景に大きく関わっているのが、ESG投資(環境・社会・ガバナンス要素も考慮した投資)の普及です。ESG投資は欧米では古くからある考えですが、普及のきっかけとなったのは2006年に国際連合(国連)が責任投資原則(PRI)を提唱したことです。日本の年金積立金管理運用独立行政法人が15年にPRIに署名し、以降、ESG投資が広がりました。
エシカルのうち、人権という要素が求められる背景に大きく関与したのが、11年に国連が「ビジネスと人権に関する指導原則(指導原則)」が採択されたこと。これにより欧米では人権侵害に対する責任を規定する仕組みとして法整備も進んでおり、フランスでは17年に「人権デューデリジェンス(DD)法」を制定。ドイツでも21年に「リーファーケッテンゲツス サプライチェーン注意義務法」が成立し、23年にも施行が予定されています。
一方、環境(カーボンニュートラル)という観点での要素が求められる背景に大きく関与したのが、15年の国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で採択されたパリ協定です。21年に開催されたCOP26で、ルールブック化されることなども挙げられます。それに伴い、欧米で先行している脱炭素対策は、企業価値を高める策として日本でも必須となっています。
もちろん、2015年に国連サミットで採択された持続可能でよりよい世界を目指す国際目標「SDGs」も、社会がエシカルを求める背景に大きく関わっています。SDGsには17の開発目標があり、その中には「1 貧困をなくそう」「10 人や国の不平等をなくそう」「12 つくる責任 つかう責任」「13 気候変動に具体的な対策を」「16 平和と公正をすべての人に」など、エシカルに関連するゴールも設けられているからです。
エシカルサプライチェーンへの対応は数年以内には必須に
このような企業に対するエシカルへの社会からの要請に対し、サプライチェーンのあり方も変わって行かざるを得ません。
従来、サプライチェーンはQCD(品質・コスト・納期)が重視され、効率性や生産性、品質という観点で管理されていましたが、これからはエシカルな観点での管理が欠かせなくなります。サスティナビリティが保たれるよう、環境はもちろん、人権やさらには紛争鉱物など戦争などについても考えていかなければならなくなっているのです。もはやエシカルサプライチェーンは、BtoC企業のアピールポイントやブランディングの要素ではなく、BtoB企業も含めたコンプライアンス対応の位置づけへと変化しているのです。
それは大手アパレルの複数社が、中国・新疆ウイグル自治区の人権問題を巡り、複数の大手アパレル会社が欧米で不買運動につながるなど、大きな問題に発展したことからも明らかです。この問題で重要なのは、大手アパレルが直接取引をしていたわけではなかったこと。つまりサプライチェーンの上流のサプライヤをたどっていった先に、新疆ウイグル自治区の綿が使われていたということでした。不買運動やネガティブキャンペーンにつながると、株価の下落、企業価値にまで大きな影響を及ぼします。さらにはサプライヤの操業停止や調達品の供給停止という調達リスク、製品リコールや返品の増加など、販売リスクにもつながります。エシカル、カーボンニュートラルを考慮したより高度なサプライチェーンへの対応は、数年以内には必須になると言えるでしょう。
20年10月、外務省は「ビジネスと人権に関する国別行動計画(日本版NAP)」を策定し、企業に対し人権DD導入を期待することを表明しました。翌21年11月には経済産業省と外務省が連名で日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取り組み状況のアンケート調査結果を発表。その調査結果を見ると、日本においては対応の有無に関しては二極化している印象を受けました。その理由としては、日本版NAPが企業アクションには踏み込まず、「人権を尊重する企業の責任を促すための政府による取組」にとどまった政府による「周知」「啓発」「普及」だったことが大きく関係しているように思われます。
アンケート調査結果の概要を紹介しましょう。人権を含めたサステナブル調達基準を設定している企業は5割弱。人権DDを実施している企業は5割強。人権DDを実施していない理由として、3割強は実施方法がわからないと回答。人権への取り組みを推進するにあたって、外部ステークホルダーの関与する機会を儲けている3割に留まっていました。
組織体制についての調査では、人権に関する主観組織を設置している企業は6割弱、人権を含めたサステナブル調達基準を設定している企業は5割弱という結果でした。 この結果から、日頃から欧米(特に欧州)に商品をグローバル展開している企業では、すでに具体的な取り組みを行っていますが、エシカルがブランディングにつながりにくいBtoBの製造業においては、現場の調達担当者がエシカルな調達をしたいと考えても、トップの方針がなければ、会社としてエシカルな調達がなかなかできない現状があるのではないかと推察しています。
次回は具体的な対応策についてご紹介していきます。